2011-01-17

Salad Days

Riverside Studios
2011年1月15日15:00

ロンドン西部ハマースミス駅から歩いて数分、カウンシル・フラットと思われる建物が立ち並ぶ地域にポツリとある、舞台や映画の複合施設、Riverside Studiosでの初観劇。むき出しの天井とシンプルなインテリアが印象的なカフェが併設されていて、お客さんの大部分は高齢者。のんびりと穏やかな空気が心地良くて、小劇場好きの血が騒ぐ。

今回の作品は「Salad Days(サラダ・デイズ)」。事前に知っていたのは、弾くと誰もが踊らずにはいられなくなるというピアノの話、ということだけ。カフェを通って劇場入り口に向かうと、大学卒業生の衣装を着た役者さんが「Congratulations!」といって卒業証書を渡してくれる。そして劇場に足を踏み入れると、観客席が中央の芝生を挟み込むように設置されていて、正面ではブラスバンドが演奏中。そして卒業生や学校関係者の衣装の役者さんたちが、誘導係をやっている。大学のグラウンドに設置された卒業式の会場が見事に再現されていて、なんだかこの光景を見ただけで、ほんわか幸せな気分になってしまった。ちなみにインターバル終了直前には、レストランに向かうカップル(次の舞台のシーン)が普通にカフェを歩いていた。こういう、舞台上と観客の境界線をファジーにする手法、イギリスでは本当に自然で素敵だと思う。

そして舞台の方はというと…。思った通り、最初から最後まで、ひたすらにハッピーな物語。大学卒業ほやほや、片や就職先を、片や結婚相手を決めなければならないティモシーとジェーンが、公園で出会った不思議な男性から期間限定で借り受けた移動式ピアノを弾くと、腰の曲がった男性から警官まで、誰もが踊り出してしまう。そのうわさを聞きつけた政府の役人が、風紀を守るためにピアノの持ち主を探し出そうとするが…最後はもちろん、大団円。一度聞いたら頭の中でリフレインしてしまう音楽、口のきけないホームレスからオールドミスまで、それぞれが表現力たっぷりに踊るチャーミングなダンス。これぞ古き良き時代のミュージカル、といった趣で、ただただ、心を素直にして思い切り楽しんだ。

後半、突如出てくる宇宙人は、ムジンクンそのままのコスチュームで個人的に大受け。特にハンサムな俳優さんだったのがツボ。彼らが乗る空飛ぶ円盤も、銀箔を貼りました~というのが丸わかりの超ベタな円盤で、これが外すギリギリのところでうまくまとまっていたのが凄い。よく演出家はこれを制作の時点でOKしたなと感心。

一つ残念だったのは、インターバル直後のエジプト風レストランでの女性歌手の場面がちょっと長すぎて、かつインパクトに欠けたこと。これは半分以上、カットして良かったのではないだろうか。
最後のシーン、登場人物皆が踊り、去った後で、一番初めに主人公の2人が卒業式の日に歌った曲がまた流れて、ピアノだけを舞台に残し、静かに、でも温かく終わったのが印象的だった。これからもこのピアノはまた、色々な人と出会い、ハッピーにしていくんだろう。そんな余韻を残すエンディング。

舞台終了後、カフェにいたら、ジャージ姿の役者さんたちが飲み物を買いに普通にウロウロしていた。役者と観客の間に垣根がない、こうした当たり前の空気が、やっぱり好きだな、と思う。ちなみにこの日は最前列に座っていた私、途中、観客を呼び込んでの大ダンス・シーンで、虫取り網を持ったおじいちゃんに捕獲される(笑)。舞台で踊ること数分。くるくるまわっただけだったのに、終わった瞬間にめまいがして、改めて歌い踊る役者さんへの敬意の念を強めたのだった。日本だったらこんなこと絶対しないのに、こちらだと断ってこの空気を壊したくない、と思ってしまうのが不思議だ。