2012-01-04

2011年、印象に残った作品たち

今になって振り返ってみると、心にくっきりと刻まれるような圧倒的な作品に出会えることはなかったかなというのが正直なところ。それでもこんな素敵な演目があった(War Horseなどのリピート対象は除く)。

●バレエ

Royal Ballet: 「Rhapsody (ラプソディ) 」
Royal Ballet: 「Les Patineurs (レ・パティヌール)」

バレエはいつも通り、基本的にロイヤル・バレエ中心。やっぱり個人的好みもあって、スティーブン・マックレーが出演した2作品が秀逸。茶目っ気たっぷりに踊り(滑り?)まくる「Les Patineurs」は彼の十八番的な作品だけど、とにかく印象的だったのがラフマニノフの抒情的な名曲とともに踊る「Rhapsody」。音楽の旋律と一体となって、呼吸をするように自然に踊るマックレーの魅力が存分に味わえる作品で、超絶技巧をいとも軽々とこなしてしまう余裕っぷりに憎らしさすら覚えるほど。結局、数日後に当日券を購入して再見してしまった。

対して、ちょっと残念だったのが、ロイヤル・バレエが満を持して世に送り出した世界初演の「Alice's Adventures in Wonderland」。アリスの本は子供のころから好きだったし、舞台装置や衣装には定評のあるロイヤルならば、きっと素晴らしい作品ができるに違いない! 新作発表まで15年以上もかかったし――ということで、異常なまでの期待感を持って臨んだからなのか、振付に特に特徴のない、小さなエピソードをつぎはぎした感のある(まあ、もともとの本がつぎはぎだけれど)作品に、いまいち乗りきれなかった。プロジェクターを使ってストーリーを分かりやすく描き出す演出は、バレエとしては斬新なのかもしれないけれど、バレエ以外の舞台では当たり前の演出なので、ちょっと古臭さを覚えたり(アリスが泣くシーンを、踊りではなく、プロジェクターで涙がこぼれる画を見せるのはあんまりじゃないだろうか)。でも世界初演、初日のガラの独特な雰囲気を(ストールの大多数がタキシード+蝶ネクタイにロング・ドレス+毛皮!)を思う存分味わえたのはラッキーだった。

●ストレート・プレイ/ ミュージカル

「Salad Days (サラダ・デイズ)」(Riverside Studios)
「Frankenstein (フランケンシュタイン)」 (National Theatre)
「Jerusalem (エルサレム)」(Apollo Theatre)

ミュージカルで印象に残っているのは「Salad Days」。観客席を大学の卒業式の父兄席に見立てた装置、役者が卒業式のガウンを身に付けて観客を卒業式の参加者として席に誘導し、インターバルではカフェの中を、これまた役者が衣装を身に付け演技しつつ横切る演出に、現実とは異なる世界をつくり出す徹底した姿勢を感じた。あとは何と言っても虫カゴ持った学者のおじさんと舞台で一緒に踊っちゃったのが何よりの思い出。はたから見るとただクルクル回っているだけなのに、自分が参加したらほんの数分でクタクタ、歌って踊って演じるって凄い(笑)。

ストレート・プレイでは、何と言っても主役のマーク・ライランス(Mark Rylance)の存在感が劇場中を支配した「Jerusalem」。くやしいかな、1幕目と2幕目の、イマドキの若者との間で次々と繰り出される会話にはついていけないこともあって、爆笑の中、一人取り残される憂き目に遭ったりもしたものの、2幕の終わりから3幕にかけて、彼の築き上げてきた、ささやかながら微妙なバランスで保たれたユートピアが徐々に崩壊していく様は凄まじかった。最後、血まみれのライランスと向かい合って演技する子役はトラウマになったんじゃないかと心配になるほど。あて書きではないのだろうが、この人以外のキャスティングはちょっと想像がつかない。このほか、良くも悪くも心に残ったのは、ダニー・ボイル(Danny Boyle)演出の「Frankenstein」。主役2人が交互にフランケンシュタイン博士とクリーチャーを演じるこの作品、私が観たのは、ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)がフランケンシュタイン博士、ジョニー・リー・ミラー(Jonny Lee Miller)がクリーチャーの回。両方観られればベストだったのだけれど、どちらか一つと言われれば、この組み合わせで良かったと思う。生を授かった歓びを無邪気に表すクリーチャーが、人間の心ない言動のせいで徐々に残虐性を増していく。人間じゃないのにどこか人間臭く、悲痛なまでの哀しさを醜く恐ろしいクリーチャーに吹き込んだミラーの演技に脱帽。あとは、意味のないところでトコトンお金をつぎ込んじゃう辺り、悪い意味での映画監督らしさを醸し出す一面もありつつ、照明含め、独自の美しい世界観を構築していたという点で、さすがはダニー・ボイルかな、と。