2013-06-13
「The Audience(ジ・オーディエンス)」
Gielgud Theatre
2月16日 14:30(プレビュー)
映画「クイーン」で威厳に満ちたエリザベス女王を演じた御大ヘレン・ミレン(Helen Mirren)が再び女王役を演じ、脚本を担当するのはその「クイーン」を手掛けたピーター・モーガン(Peter Morgan)。そして演出は「ビリー・エリオット」でサッチャー政権下のイングランド北部の炭鉱に住む人々の姿を描いたスティーブン・ダルドリー(Stephen Daldry)とくれば、こうならないわけがない。
昨年、即位60周年を迎えたエリザベス女王。25歳で王位を継いでから現在までの期間に、実に12人の首相が生まれては去っていった。この舞台では、君主と首相が毎週行う謁見の様子を、奇を衒うことなく丁寧に、次々と見せていく。
ミレンの女王っぷりはさすがの一言。普段の顔つきはさほど女王に似てはいないけれど、舞台上での彼女は、外見もさることながら視線のやり方から座り方に至るまで、一挙手一投足が女王そのもの。時間軸をバラバラにして各首相との謁見の様子を細切れに見せていく演出で、その都度、時間をさかのぼったり、飛び越えたりしなければならないわけだが、若かりしころの初々しさや戸惑い、戦時中の苦悩、時代とともに培った威厳などを瞬時にその身に纏って颯爽と舞台に現れる。そしてその女王に対峙する首相たちがまた秀逸。ジョン・メージャーなど、外見からして瓜二つな俳優もいれば、キャメロン現首相のように、顔のつくりは異なるけれども育ちの良さそうなピチピチとした演技で「らしさ」を追求する俳優もいるが、いずれも実にそれぞれの首相のポイントを突いている。中でも「おいしい」役柄なのが、ハロルド・ウィルソン(演じるのはリチャード・マッケイブ(Richard McCabe))。この作品では、依怙贔屓など絶対にしない女王が唯一、特別な感情を抱く人物という設定になっていて、女王に記念写真をねだったり、スコットランドのバルモラル城で女王やコーギー犬たち(!)と寛いだりと、何度か登場する。最後の謁見で、記憶力が低下しつつある自分自身に衝撃を受けるウィルソンに対して女王が優しく語り掛けるシーンでは、女王のウィルソンへの深い親愛の情が痛いほどに伝わってきた。
一方、個人的に一番弱いと感じたのが、サッチャーとのシーン。サッチャー役のヘイデン・グウィン(Haydn Gwynne)は、ダルドリーが演出した舞台版「ビリー・エリオット」でミセス・ウィルキンソンのオリジナル・キャストを務めた実力派。だが今回は、外見のインパクトの弱さ(他の首相と比べると、全く本人とは似ていない)だけでなく、女王とのやり取りに緊迫感以外の深みが見られなかったように思う(これは演じる側というよりは、脚本・演出的な問題かもしれないが)。なお、プレビューではウィンストン・チャーチル役を87歳のロバート・ハーディ(Robert Hardy)が演じていたものの、初日直前に体調不良で降板、エドワード・フォックス(Edward Fox)が引き継いでいる。
女王と首相たちのやり取りの合間には、まだ幼いエリザベスが姿を現し、現在の女王とわずかな会話を交わしていく。突然父親が王位を継ぐことになり、やがては自分自身も君主とならざるを得なくなった才気あふれるおしゃまな少女を導くように、温かく言葉を掛ける女王の姿に、長い月日を女王として過ごした彼女が得たものと失ったものが見えたような気がした。